回り道~3度の飯より将棋が好き♪~

将棋のエッセイや戦術、私の日常について綴っています。

広瀬章人新竜王

竜王戦が決着してから約10日あまり。

広瀬章人竜王の勢いが止まらない。

順位戦王位戦と連勝して今年の対局を終えられた。36勝11敗、勝率7割6分6厘は驚異的な勝率だ。

年明け早々には豊島二冠との順位戦があり、さらに棋王挑戦と今後の活躍から目が離せない。

 

広瀬先生といえば、当時の深浦王位に挑戦した第51期王位戦での大激戦が印象深い。四間飛車穴熊を連採し、見事に4勝2敗2千日手で王位を獲得。決着局となった第6局は、将棋大賞の名局賞にも選ばれている。

私自身、四間飛車穴熊はとても愛着があり、長年主力として苦楽を共有した間柄。

それだけに広瀬先生の活躍は嬉しく励みになった。

 

指し回しはもちろんだが、何より驚いたのがその駒組である。

穴熊にする場合、▲28銀とハッチを閉めた後は、▲39金までがセットだという概念が私にはあった。しかし広瀬流は、その39に金を寄せる1手を中央に使い、先行を狙い積極的にリードを奪いに行く。

私の中では升田幸三賞である。一生かかっても浮かばない構想に感動し、心酔した。

そして、王位獲得後に程なくして「四間飛車穴熊の急所」と「広瀬流四間飛車穴熊勝局集」が出版された。

どちらも面白すぎて、むさぼるように読んだ。特に勝局集は前書きを音読し、全50局を暗記するほど、盤に並べて何度も何度も再現した。その度に新しい発見があり、将棋の面白さを再認識したものだ。

また、以前に出版された「とっておきの相穴熊」はアマ強豪の遠藤正樹氏との共著でこれも名著であり、非常にオススメしたい1冊だ。

そんな事をいろいろ考えていたら、

当時の様子がまた知りたくなり将棋年鑑を紐解いてみた。

すると、1局の棋譜が目にとまった。

王位戦の挑戦者決定戦の羽生先生との将棋だ。この将棋は有名な▲22馬が炸裂した将棋、と言えば思い出される方もいるかもしれない。

ハイライトはこの場面だ。

平成23年将棋年鑑239ページ▲広瀬章人五段対△羽生善治名人(肩書きはいずれも当時)より棋譜の一部を引用」

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今、羽生先生が△47馬と金を取った所。

これに対して▲同銀は△57金があるので、私は▲同馬の1手だと思っていた。

ところが、広瀬先生は24分考えて▲同銀。え!?△57金にはどうするんだろう?羽生先生は△57金を選択。それに対してノータイムで▲55馬。銀がただなんだが一体これは…


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そして、羽生先生が△47金と取った場面。ここからまたもノータイムで▲22馬が鮮烈な一着。天王山の馬を捨てて、△同金に▲31銀。55角との連動もあり、一気に寄り筋に。一瞬の出来事に言葉を失った。

以下も流れるような手順で即詰みに討ち取り、制勝。

また、広瀬流の四間飛車が観れる日は来るのだろうか。楽しみは尽きない。

 

実は、広瀬先生とは5年前にお会いした事がある。子供大会の審判長で来県され、その時にお話しさせていただいた。

当時、四間飛車穴熊勝局集はいつもカバンに入れて持ち歩いていたので、感想と感謝を伝えると、広瀬先生の相好が崩れた。

「それはとてもありがたいですね。良かったらサインしましょうか?」

いいんですか?と驚く私をよそに、

「もちろんです。」

筆ペンを丁寧に、ゆっくり運び、文字を綴る広瀬先生。

私は緊張した面持ちと興奮でそれを見つめていた。

どうぞ、と言って渡された本に書いてあった言葉は

「飛躍」

一生の宝物となった。

その後、広瀬先生の指導対局を観戦。

柔らかく、丁寧に駒を運び、ほとんど駒音を立てずに指されていた。

子供へのアドバイスも優しく、褒められた子供は皆、とても嬉しそうな顔だった。

 

その後は、より一層広瀬先生の本を読み込み、四間飛車穴熊をエース戦法として確立。県内はもとより、他県の強豪とも互角に戦えたことは大きな自信となった。

最後に昔撮った四間飛車穴熊の動画を紹介。

対戦相手の魚鱗さんは、元大阪竜王名人、その他代表多数の超強豪。

え?紹介するからには勝ったのかって?

ハハハ、そこは動画をご覧いただけたら幸いですσ( ̄∇ ̄;)笑


[中級者向けVS天下一将棋会のスーパースター - YouTube

 

 

 

竜王戦決着

ついに竜王戦が終わった。
終局から随分時間が経つが、興奮が覚める気配はない。
広瀬章人先生が4勝3敗で初の竜王獲得。連敗の苦しい出だしから追いつき、最後に栄冠を手にした形だ。
最終局もじりじりした展開から、見事に抜け出した。じっと▲56馬と活用した手が特に印象深い。終局後のインタビューで静かに丁寧に言葉を紡ぐ姿が印象に残った。

羽生善治先生は惜しくも敗れた。
終局後、広瀬先生のインタビューの後にマイクが向けられた。
その瞬間、全身の細胞がざわめく。
羽生先生の毅然としたその姿に胸が押し潰されそうになった。だが、力をつけてまたチャンスをつかめたらという力強い言葉に驚き、そして感動した。
敗れてなお強し。羽生先生に対する畏敬の念は、ますます深くなった。

広瀬先生、初の竜王獲得、誠におめでとうございます。
名勝負を見せていただき、羽生先生と広瀬先生に感謝の気持ちで一杯です。
本当にありがとうございました。

羽生先生はきっと帰ってくる、タイトル戦の舞台に。きっと必ず。

第31期竜王戦七番勝負第7局2日目16時現在形勢

昼食休憩の間にテレビをつけると、多くのテレビ局で竜王戦を取り上げており大変喜ばしい気持ちに。
加藤一二三先生と田中寅彦先生が一緒に、佐藤紳哉先生と片上大輔先生がそれぞれ出演されて熱弁を振るっておられた。
特に加藤一二三先生は元気一杯!そのバイタリティーは素晴らしい。

さて、現局面の形勢だがまた互角に戻ったような気がする。先程までは広瀬先生がわずかに抜け出したように感じたが、羽生先生の玉の耐久力がすごい。22~12と手にのって戦場から遠ざかった感じだ。今じっと▲56馬と出て、遠く後手玉に睨みをつけた。攻防の好ポジションだ。

両者残り時間も少なくなり、終盤の難所を迎えようとしている。
勝者の栄冠はどちらに…?

第31期竜王戦七番勝負第7局2日目昼食休憩

羽生先生の手番で昼食休憩へ。
全ての力を振り絞って、最善を求めているのが画面越しからも伝わってくる。

肝心の形勢はどうか。
わずかに、先手の広瀬先生に針が傾いたような気がする。現在は香損だが、全ての駒が働いている上に、後手陣に刺さった3枚の攻めの歩も強力だ。
何より81の飛車を押さえ込んでいる事が大きい。14の馬もやや働きが弱そうだ。
次に▲11歩成が見えているが対策も悩ましい。
△22玉には▲41角が気になる筋だ。

結末に少しずつ、少しずつ近づいている。
午後からも熱戦を見守りたい。

第31期竜王戦七番勝負第7局2日目封じ手開封

封じ手は▲58金。玉の守りを固めながら、馬と成香から遠ざかった一手だ。
それに対して羽生先生は△27成香と活用。これが後程どれだけ効いてくる駒となるのか。
この後の展開も興味が尽きない。

前夜はブログを更新してから、気持ちが昂ってなかなか寝つけなかった。
封じ手の事や、今後の展開。羽生先生と広瀬先生の心情。応援する人々の気持ち、背景。他にもいろいろな事が浮かんでは消えていった。

指し手を予想しながら、珠玉の攻防を最後まで堪能したい。どうやら、今日はずっと興奮状態が続きそうである。

第31期竜王戦七番勝負第7局1日目

ついに雌雄を決する時がきた。
戦型はシリーズ5度目の角換わりに。
現局面は互角と思われるが、個人的には羽生先生の方を持って指してみたい。馬と成香が手厚く、玉も安定しているのがその理由である。
また、△76歩の叩きや、△87歩の垂らしなど歩を使った攻めも厳しそうだ。
私の封じ手予想は▲37金。他には▲58金も有力そうだ。▲28歩は攻めに使えなくなるだけに、打ちにくい感じがするのだが…
封じ手開封に注目である。
大激戦の今期竜王戦、果たしてどんな結末が待っているのだろうか。
タイトル100期か、新竜王誕生か。
熱戦を最後までこの目で見届けたいと思う。

大山杯・アマ王将南東北予選⑦「暗転」

図は△35歩まで
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猛追を受け、リードが完全に消えた。△35歩に対して▲同馬は△58歩成がある。
「まずい…流れが悪すぎる…」
力なく▲14馬。後手はノータイムで駒音高く△23銀!馬に当てながらただ捨ての鬼手を放ってきた。
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「なぬ!Σ( ̄□ ̄;)」
まさか32の遊び銀が活きてくるとは…
時間切れ寸前で▲同馬。
後手は待望の△58歩成。
「そんなバカな…68歩の叩きは取っておけば良かったか…」
秒読みで反省したら終わりである。無機質なブザー音が容赦なく迫り来る。
手が見えない!私は慌ててある駒をむしり取った。
そう、決して触れてはいけない45にある桂馬を。
後手は残り2秒まで考えて、落ち着いた手つきで△同飛車成。それから駒台を丁寧に並べ直した。
そして、ずっと前のめりだったが、スッと背筋が伸びた。それと私の肩がガックリと崩れ落ちるのがほぼ同時だった。
もう、この将棋は…勝ちがない。
例えるならば、雨の日も風の日も、じっと耐えて丁寧に育ててきた大切な花が、開花間近で根本から折れてしまう感覚。
しかも折ってしまったのは自分、たった一手のミスで。全ての責任は私にある。
投げきれずにひたすら指す。ただひたすらに。
いよいよ私の玉に必至がかかった。
この対局も、この空間も間もなく終わってしまうのか。
「負けました」
はっきりとした声で投了を告げた。
「これ負けんのかよ…まじか…」
心の声をグッと飲み込む。
言葉が出てこない。頼む、なんかしゃべってくれ。
ただ、その願いも空しく、空間は静寂に包まれていた。あまりのひどさに私を気遣ってくれたのかもしれなかった。
「これが…」
私の指は23を差している。
「あ、ええ…」
消え入りそうなか細く小さな声だった。
感想戦は、次の進行もあったので短めに。
離席間際、相手の方が
「あまりに苦しい時間が長かったので」
苦笑いと共に心からホッとした表情が印象的だった。
総手数162手、持てる力は全て出しきった。
でも、やっぱり、勝ちたかった。