日常エッセイ「じゃんけん将棋」

将棋教室も残り30分。子供達の将棋を観戦している時だった。「ジャンケンポン!」

誰もが知っているお馴染みのフレーズが聞こえてきた。

「ん?」私は、眉をひそめた。おそらく振り駒に変えて、先手と後手を決めているのだろう。そう思っていたのだが、声は静まる気配が一向にない。むしろ、高まるばかりだ。

やれやれ、叱るのは気が引けるんだよな。そんな事を思いながらその場に行くと、何やら様子がおかしい。

「ここで勝負をかけるぜ!」

その掛け声と共に、信じられない1手が指された。▲33角成!!


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勝負をかける!?意味不明である。

将棋のルールがわかる方なら、これには△同角や△同桂と取れる事がお分かりいただけると思う。要は自ら大損する「ありえない手」なのだ。

そんな事を考えていると、またもや

「ジャンケンポン!!」

先程よりも掛け声が力強い。

「よっしゃー!!」

雄叫びと共に相手の王を取ってしまった。どうやらジャンケンで勝った方が連続で指せるルールらしい。子供の発想力には恐れ入る。私は1度も考えたことがなかった。相手の子供は頭を抱えて本気で悔しがっているではないか。

「おいおい、どっちもおかしいだろ」

思わず笑いながら声を出すと、辺りは爆笑の渦に包まれた。

笑いは笑いを呼び、楽しさは波及する。

なんと、他でもジャンケン将棋が始まったのだ。当然、こちらでも再戦が始まった。勝敗に一喜一憂する子供達。

「将棋の強さと全然関係ないじゃん!」

笑顔で突っ込みを入れる私。

「そうなんですよ、先生。意味ないんですよこんなの」

利発そうな子が私に話しかけてきた。だが、そうはいいつつも楽しそうな笑顔だ。

その時だった。私の方を見上げる一人の男の子。

「出さなきゃ負けよ!ジャンケンポン!」

なんだその掛け声は。初めて聞いたぞ。

笑いながら「出しても負けたじゃねーか」

はにかむ子供の笑顔のかわいいことといったら!天使である。

「僕も!僕も!」

最早完全にジャンケン大会である。次から次へと子供がやってくる。

「先生ジャンケン強いねー!」

子供達からありがたい?褒め言葉をもらい終了の時間となった。童心にかえるとはこの事を言うのだろう。まだ1度も対局したことがない子供とも交流できて、とても嬉しかった。これで少しずつうちとけられたらいいな。ほんのりと心に灯りが差したような、そんなあたたかい気持ちに包まれた。

最後の終了の挨拶前に一番偉い先生から一言。

「対局中は私語は慎んで、真剣に盤面に臨むように」

子供達は神妙な面持ちで聴いている。

「あの先生が一番楽しんでたじゃん」

子供達の視線と心の声が痛い。

ごめん、と心の中で手を合わせる私なのであった。