加藤一二三先生(ひふみん)講演会最終回「50年」

いよいよ講演会も終盤にさしかかってきた。

この間、加藤先生はしゃべりっぱなしである。

そのバイタリティーは本当にすごい。

「私は1982年の7月31日に名人を獲得しました。これが最も嬉しかった出来事です。最後の一局は95%負けている内容でした。神様の恵みだったと思っています」

この将棋は「加藤一二三名局集」にも載っているが、

本当にすごい将棋である。最後の詰みは、加藤先生の名人獲得を祝福するかのような絶妙な配置で感動的なものであった。初めて名人に挑戦されたのが二十歳の時。それから22年での載冠。情熱を持ち続けて挑戦されるのは本当に

偉大な事だ、と改めて思った。

そこから信仰の話へ。まもなく終了の時間が迫ってきた。

もっと加藤先生の話を聞いていたいな、そんな思いにかられた。

主催者の方がマイクを持った。

「それでは、何か質問がある方は挙手を・・・」

きた!電車の中で質問を考えてきたのだ。しかし、右手は

ピクリとも動かない。緊張で頭が真っ白になってしまったのだ。ためらっている内に何人かの手が挙がり、ついに私に手番は回ってこなかった。というよりは勇気がなかっただけなのだが。軽い自責の念と後悔が襲ってきたが後の祭りだ。

藤井聡太先生についての質問で、

「藤井四段は秀才型の天才だと思っています。でも僕は勉強してない天才なのね」会場が大いに沸いた。さすがは加藤先生である。

「我々の世代は情熱を込めて戦ってきました。私の指した対局は50年経っても感動を呼びます

力強く断言する加藤先生。隣の聴講者の方がそれを聴いて、小さく拍手し続けていたのが印象的だった。

最後に面白エピソードを。

升田先生と一緒に偉い方を訪ねる時の事。

加藤先生はわずかに遅刻してしまったらしく、升田先生から一言。

「加藤君、僕を待たせたのは君だけだよ」会場爆笑。私は盛大に吹いた。やはり大物は違う笑

また12歳の時に升田先生vs大山先生の記録を取った時の事。「記録を取りながら二人の似顔絵を書いてた事がありました←最高の笑顔」

加藤先生お茶目すぎる!どんな似顔絵か気になったのは私だけではあるまい。会場みんなでニッコリ。そこで加藤先生から、

「僕はまだ大丈夫なんだけど、時間どうですか?」

主催者の方が申し訳なさそうに、「先生、あのお時間が・・・」すでに35分オーバーしていたらしい。

「あ、はい。そうですか。はい。ではこのへんで」

参加者72人、11歳から89歳。遠くはなんと神奈川!から来られた加藤ファン全員から惜しみない拍手が送られた。

そこからはサイン会とツーショットの写真撮影。

サインはなんと為書きである。

予想通り長蛇の列ができた。

自分の番が近づくにつれ、どんどん緊張がましてくる。

心臓の鼓動が早くなるのを感じた。その時、遠くから

「私、嬉しくて手の震えが止まらないんです」

サインをもらった女性が、運営の方と笑顔で談笑している声が聞こえた。分かりますよ、その気持ち。憧れの方と会ったら感激でそうなりますよね。私の頭に浮かんだのは、女優さんやアイドルの握手会、そしてPerfumeのライブである。そんな事を考えている内に列は徐々に進んでいった。

そして、とうとう私の番になった。

持参した「加藤一二三名局集」を差し出す。

いつも並べてます!加藤先生の将棋は芸術です!!

その想いは、ついに言葉として発する事なく終わった。

緊張しすぎて、言葉どころかまたしても頭が真っ白になったのである。本を持ってツーショットで撮影。本を持つ手はブルブルと震えている。

か細い声で一礼。胸にはまだ動悸と高鳴りが残っている。

一緒に撮影してくださった加藤一二三先生の眼差しは、優しくそしてあたたかった。
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主催者の方にお礼を言って退出。

まだ夢なのか現実なのかよく分からない、ふわふわした

気持ちだった。しばらくサインとメモ帳を見ながらぼんやり。夕方の柔らかい風が心地よかった。

小腹が空いてきたので、やはりここはウナギだろう!と一人大またで闊歩。

だが、お目当てのウナギ店は満席だったので断念。

仙台駅にてだだ茶豆シェイクを堪能する作戦に変更。


やはりこれは好手で絶品だった。

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電車を1本遅らせて、帰途へ。

車窓から見えるかすかな灯り。

加藤先生の情熱の灯りは生涯不滅。そんな事を思い浮かべながら、私は眠りに落ちた。