読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

「真冬の汗」

エッセイ

その年は例年にない大雪だった。

毎朝、帰宅後は雪はきに追われる日々が続いた。

ある朝、わずかに出発時間が遅れた。案の定、渋滞に巻き込まれた。

焦りながら駐車場に停車すると、空回りする音が聞こえた。

「まずい」

始業時間が迫っている。

ひとまず車をそのままに、会社へ駆け出した。

 

昼休み。

多くの従業員でにぎわう食堂。私は食事をしながらも車の事が気になっていた。

「駐車場で車が雪にはまっちゃってさ」

思わず私は同僚のAさんに切り出していた。

Aさんは私より年下だが、会社では先輩だった。

元気で明るい誰からも好かれる好青年だ。

「え?それって大丈夫なんですか?」

彼の表情が途端に曇った。

「うん、たぶん大丈夫。なんとかなるよ」

そう言いつつも、車が抜け出せない不安で一杯だった。

そんな心の声が彼に届いたのだろうか。次の一言は予期せぬものだった。

「もしだめだったらいつでも連絡ください」

外は相変わらず雪が降り続いていたが、私の心には太陽が差し込んだようだった。

 

夕方、仕事を終えて車にたどり着いて愕然とした。

日中降り続いた雪で、脱出はさらに困難な状況となっていたのだ。

とっくに日は暮れて、辺り一面暗闇に包まれている。しかも車にスコップは積んでいなかった。

私の心は、心細さと不安で押しつぶされそうだった。

次の瞬間、急に辺りが明るくなった。まぶしい、と感じながら目をこらして私は見た。

もしかしてと思うより先に明るい声が響いた。

「大丈夫ですか」

そこには笑顔のAさんが立っていた。

 

会社から借りてきたというスコップで、我々はひたすら、雪を掘り続けた。その間も、

絶え間なく降り続ける雪。これじゃ全然らちがあかない。そう思いながら、ふとAさんを見て私は度肝を抜かれた。頭から湯気が出ていたのだ。

それどころか、全身から発汗している。額には大粒の汗が浮かんでいた。

自分の事じゃないのにどうしてそこまでできるんだ、彼は。

黙々とスコップで掘り続ける彼を見て、急に恥ずかしくなってきた。

ありがとう、と心の中で感謝を述べて私も没頭した。

 

どれくらい時間が経っただろうか。ついに地面が見えてきた。

「これならいけますね。動かしてみましょう」

一瞬空回りの音が響いたが、次の瞬間、見事に車は脱出した。

笑顔でガッツポーズする彼を見て、胸が熱くなった。

「また何かあったらいつでも呼んでください」

笑顔でそう言い残して去った彼の車を、私は見えなくなるまでずっと立ち尽くして見続けていた。

 

「先生と将棋の神様」

エッセイ

将棋を覚えて3ヶ月。友人2人と共に臨んだ初めての大会は、残念な結果に終わった。

意気消沈して帰ろうとしていると、後ろから声が聞こえた。

指導対局受けていきませんか?」

 指導対局?怪訝そうな我々にその男性は続けてこう言った。

「最後の空きがあるんですよ」

なんでも、プロの先生が同時に10人を相手に対局するようだ。

せっかくだから受けてみよう、我々の意見は一致した。

 

3人並んで座ることになった。私は一番右端である。

駒を並べながら、手合いの話になった。

「飛車と角を抜いてもらおうかな」

どうやら友人2人は、ハンデをつけてもらって対局するらしい。

「で、お前はどうするの?」

私は間髪入れずにこう答えた。

「もちろん、このまま。ハンデはなしで」

友人達は目を丸くして、まじまじと私を見つめている。

「正気か?相手はプロの先生だぞ?勝てるわけないだろ」

2人は同時に口を揃えた。

「そういう問題じゃないんだよ。俺の闘争本能が全力で挑みたがってるんだ」

お前らしいな、と苦笑いする友人達。

私もつられて笑った。心臓の高鳴りが最高潮に達したその瞬間。会場が騒がしくなった。

佐藤康光竜王だ!」

ギャラリーから声がとんだ。

プロの先生についてはほとんど知らなかったが、佐藤康光先生の名前は知っていた。

後から、プロの先生が次々に入場された。

その中で、明らかに発しているオーラが違う先生がいた。まるで剣豪のような雰囲気である。幼心にただならぬ気配を感じた。

そして、その先生こそが我々の対局担当だった。一人ずつ手合いを尋ねながら、対局が開始されてゆく。いよいよ、私の番になった。心臓の音が、会場中に響き渡っているかのような錯覚を覚えた。

「手合いはどうしますか?」

優しく柔らかい口調だった。

「このままでお願いします」

すると、先生の眼光が一気に鋭くなった。

私は、全身が総毛立つのを感じた。

「…分かりました。では先手でどうぞ」

「お願いします」

互いに一礼を交わし、対局が始まった。

プロの先生に教えていただく時には基本的に駒落ち、と知るのは随分後になってからだった。

 

先生はものすごい早指しで、次々と終局していった。友人達もどうやら敗れたようである。

「玉はしっかり囲うこと」

棒銀は遊ばせないように、飛車と銀で協力して攻めるのが大切」

とても丁寧なアドバイスをいただいたと、対局後に友人達が教えてくれた。

一方その頃。私は、全身全霊で盤面に没頭していた。先生の繰り出す一手に夢中だったのだ。

全力で攻めたが、先生の守りは鉄壁で全て跳ね返された。

いつまでもこの時間が続けばいいのに。形勢がいよいよはっきりして、ちらりと先生を見た。私は、思わず声をあげそうになったのをかろうじて飲み込んだ。驚いたことに先生の眼光はさらに鋭さを増していたのだ。勝負はもう決定的なのに…?私は、一瞬疑問に思ったがすぐに合点がいった。先生は、勝敗を越えて、将棋の真理そのものを追求しているのではないか。そのプロフェッショナルな姿勢に、胸に熱いものが込み上げてきた。そして、とうとうこの時がやってきた。

「負けました」

私は、はっきりした声でそう告げた。

先生は、それに対して深く一礼された。

そして、始まった感想戦。他とは違って、とても静かなものだった。先生は、時折天井を見上げながら思惑にふけっておられた。

「本当にこの一手は最善だったのだろうか?」

その姿は、まるで将棋の神様と対話されてるように私には思えた。

桂馬は中央に活用した方がいいですよと、教えてもらって感想戦は終わった。

「先生、あの…」

私は、勇気を振り絞って聞いた。

「私の実力は何級くらいですか?」

思わぬ質問に先生は少し戸惑っていたが、しばし考えられて、

「そうですね…3級くらいですね」

もう少しで初段!?私は、天にも昇るような喜びにかられた。

 「先生!これからもがんばってください!」

私の弾んだ声に、初めて先生の表情が緩んだ。はにかむ、という表現がぴったりの最高の笑顔だった。

「すいません、ここにサインお願いします」

色紙は持ち合わせていなかったので、大会のパンフレットを差し出した。

先生は1文字、1文字心を込めて丁寧に書いてくれた。そうして、戻ってきたパンフレット。

そこには力強い文字ではっきりと

「五段 三浦弘行」と書かれてあった。

 

 

"VS天下一将棋会の貴公子"


VS天下一将棋会の貴公子 - YouTube

天下一将棋会のトッププレイヤーのワタルさんとの熱戦です。

ワタルさんの持ち味が全開の将棋です。

定跡にとらわれない、力強い将棋をお楽しみください。

"VS天下一将棋会のスーパースター"


VS天下一将棋会のスーパースター - YouTube

魚鱗さんとの相穴熊の熱戦です!!

力一杯、解説しました!!

"流れるような駒捌き"

YouTube動画解説


流れるような駒捌き - YouTube

全くチャンスが訪れないまま、完敗を喫しました。序盤の駒組の重要性を再認識しました。

"3手1組の妙手順"

YouTube動画解説


3手一組の妙手順 - YouTube

相手の方の構想が絶妙でした。一瞬で将棋が終わってしまいました…

"会心の捌き VS力戦四間飛車"

YouTube動画解説


会心の捌き VS力戦四間飛車 - YouTube

 

会心の捌きが決まりました。大駒の威力をお楽しみください。